三崎口駅に向かう手前の菜の花は盛んだったけど、上の河津桜はもう散って、葉っぱの中にチラチラと赤い点が見えるだけだった。ぼやぼやしていたら一つ春が過ぎていた。
支度して入江に浮かぶ。腰をいたわりながら一とかき、二たかきとパドルを回した。痛めた場所がちょうどパドルを引く時に使う筋肉のようで、痛み一歩手前の刺激がひと漕ぎごとに神経にさわる。それを目印にして、ゆっくりと体をほぐすように、ピリッ、ピリッと腰の後ろに感じながら諸磯までやってきた。
海況は申し分なし。富士山は霞んで、雪の白さだけが薄い色の空に浮かんで見える。ひねもすのたりのうねりが波遊びに誘う。二本ほどやらせてもらって先に行く。
長津呂崎から安房崎までやってきたけど、真っ直ぐ渡るのはまだためらわれたので、盗人狩りを目指して近めに折り返すことにした。
そうしてまた城ヶ島から三崎の堤防をまわり、諸磯目指して漕いでいると、向こうから二艇カヤックが見えた。寄っていって、レジェンドとスリムな先輩に挨拶し、話を聞くと二人は赤羽根海岸先の洞窟の浜で昼にするというのでついていくことにする。
浜では流木を探す。これが用事の一つ。曲がった良い感じの木が欲しい。良さそうな二本を拾って薄い船のデッキの乗せようとすると、レジェンド先輩がそれならハッチに入れて持っていってくれると言う。
簡単にカヤックに納まった流木二本にキャンプの頼もしさを感じる。次は俺の浜に行きたい。何年か前の台風で倒れた木があって、いい感じの枝があったらそれも試したい。
昼の陽射しが熱くてゆっくりできないので、二人もすぐに水の上で一緒に俺の浜まで漕ぎ通す。腰の違和感はだいぶ消えて。リハビリにカヤックは最適だなあ。
俺の浜について倒木に近づくと、遠目では分からなかった傷みがあった。虫に食われてだいぶスカスカな感じがする。一本、適当な太さの枝を切ったら、芯に穴が開いて使えなそうだ。仕方ないので、また流木で良さそうなのを見つけてそれを持って帰る。
今度のはハッチに入らない長さ。ロープで引いていこうかと思ったら、またレジェンド先輩がコックピットなら入るんじゃ、と試して見たらちょうどすっぽり。自分の足をなんとかねじ込んで漕ぎ出していった。ありがとうございます。
急いで自分の舟を浮かべて追っかけ、三人で入江に滑り込んだら、ちょうど黙祷の時間だった。てんでバラバラの時計ではあったけど、銘々黙祷して舟を上げた。
拾ってきた流木は、自分で今作っている舟に使う。地元の木に見守って貰いながら、春ののんびりした海を皆で平和に漕げますように。