支度をして出艇場所に舟を運ぶと、横の造船所の親父さんが海を見ながら「い〜い凪だねぇ」と声をかけてくれた。
この親父さんは、釣りの方もいっぱしで、工場の二階の部屋は釣具で一杯、気が向くとボートを出しては、「今日はアジが食べたいから」と言ってはアジを釣り、他の魚ならその魚を釣ってきて、小網代湾周辺を自分の生簀かなんかのように使っているらしい。
そんな親父さんが良い凪だと言うんだから今日は間違いない。稲村ヶ崎までと出艇簿に書いたけど、昨日行けなかった江ノ島まで行っちゃおうかなー、なんて思いながら舟を浮かべた。
ヨットの脇を抜けてでかけると、風もなくぺっとりとした水面。だけど、網代崎を見るとうねりがゆっくりと崩れている。堤防から出て見晴らすと、いつもの2つのポイントにはそれぞれサーファーと SUP がもう入ってた。
これは一日波で遊んじゃう日なんじゃないかとも揺れたけど、こういう日だからこそ遠出をして、あちこちのポイントを見て回ろうと決めた。だから、やっぱり稲村ヶ崎で折り返しを目指す。でも、出かける前に定番のポイントでサーファーと一緒に一本乗って、それでやっと出発。
亀城礁と江ノ島が重なるようにレンジをとってまっすぐ向かい、50分漕いで10分の休憩を守り、その都度何かを食べながらだらだらと漕いでいく。僕は早くは漕げないけど、大手を振って散歩をするように、日がな動いていきたい。
亀城礁につくと、ざわつく潮の動きとうねりが相まって、水がぬるりと持ち上がってはすり抜けていく。良い気持ち。期待も高まる。
長者の沖からは稲村ヶ崎の岩肌に狙いを定めて、思ったとおりの時間につけた。ついたとはいえ、ここは有名なスポット。波的にも人出的にも諦め、うねりが割れて進み岩場に崩れ波がぶち当たるのを遠巻きに眺めて折り返す。
折り返して向かうのは大崎。ここは岩場ではなく、その沖合のほうがよく波が立ってた。SUP が数人だけだったので、その脇で一本、気持ちよく遊ばせてもらった。うねりが崩れずに長く押してくれて、下までおりずに少ししたを向いたまま右に左にパドルを切り替えして楽しめた。
あー、さすがに名だたるポイントはいいなあと味わいながら岸ベタに、次のポイントは長者。近づいていくと、白いシーカヤックが一艘遊んでる。あら珍しい。他にもウィンドサーフィン、サーフスキー、ハイドロがついたサーフボードと、実にそれぞれな道具で遊んでる。僕も一度転がされながら、何本も楽しませてもらった。
とはいえ、長者からなら大崎も近いし、なんでそっちに行かないんだろう。向こうのほうが広いし空いてるのにね。
白いシーカヤックは、一度僕の方をじっと見ていたのでこんちわーと挨拶したのだけど、聞こえなかったのか、そのまま見続けている。もう一度こんちわと言ったのだけどそれでも反応が無かったので、もう時間を頃合いだったし、会釈してまた先にすすむことにした。
ちょうど昼も下がりはじめ、強くないとはいえ、ここからは予報どおりの南風。佐島のキラキラを通過して荒崎に渡るいつもの道を、重くなってきたパドルを回して帰った。
江ノ島は残念だったけど、ちょっと距離を出せて感じがつかめた。手にはマメができたけど、夏の間にまた皮も強くなるでしょう。そうしてクラブに戻ったら、他にも二人、平日組の先輩が来てもう帰ったあとだった。良い凪をみんな楽しんだと思う。
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