年に一度のクラブイベント、江の島往復ツアー。小網代から往きは真っ直ぐ330度で江の島を目指し、帰りは岸沿いに漕ぎ帰る。
ここ何年かは海況が悪くて開催できなかった。今年も台風一号が発生してどうなるかと気をもんでいたら、そいつが梅雨前線を南に引き込んで絶好の予報となってめでたく開催の運び。
クラブのツアーでは僕はこれが一番好き。10時間くらい海にいると何かしら起こる。そういうのをチームで何とかする。また、何にも起きずに帰れたらそれだけこなせる力がついたということなんだろう。どう転んでも面白い。
今回のメンバーは大先輩、手広くやってる後輩、筋トレ後輩、熱心な後輩に僕の総勢五人。少数精鋭。海況も良さそうなので皆シングルで行きましょうと言うことになる。
それならと甘えて薄い舟をラックから出そうとすると、大先輩から「え、それでいくの」と声が漏れる。はい、まだ稲村ヶ崎までしかこの舟で行ってないのでチャレンジさせてください。
手広い後輩と筋トレ後輩はこのツアーは初めてだけど、ふたりともパワフルだから問題ないっしょ。そんな二人の艇は赤青のゴリラ。熱心な後輩は何回かやってるけど、海燕では初めてだね。
さっそくクラブで支度をして海の上。漕ぎ始めた凪の海に大先輩はとても眠そう。大先輩の刻むパドルのペースに皆合わせてしっかりと集まって漕いでいく。先に走る人がいないのはちょっと珍しいけど、寂しさもある。
50分漕いで10分休憩のペースで進む。手広い後輩が定期的に〇〇キロ漕ぎましたーと報告してくれる。途中、熱心な後輩が気が向いて沈脱したけど、久しぶりだったので馬乗りに失敗し、軽く舟を押さえて手伝うのは御愛嬌。
そんなで四回休憩したら江の島の南側に取り付けた。いつもの橋のたもとに上がるか大先輩が決めかねている様子。海も静かだし南の岩場に上げようと決めて、盗人狩のような隙間に入っていく。周りにはカメラを構えた人が大勢いて崖を伺っている。後で調べたらハヤブサか営巣しているらしかった。見守る会というのも有って、巣立ちの時期で盛り上がっていたようだ。
皆が上を見上げてる中、下で用事と食事をもそもそと済まし、半時間でまた海の上。そのまま島を右に一周して橋をくぐり、これからは帰り道。橋の下のいつもの浜は潮が満ちて水の下だった。大先輩が決めかねていたのはこれか。気が付かなかった。
腰越から稲村ヶ崎までの浜辺はサーファーが点々と入り、でも潮がだいぶ上がっているので乗れる感じじゃなさそう、日差しの下揺られて浮いている。人のいない所を見て僕らも乗ろうとして見るけど難しい。それでもココイチデカい波というのは来るもので、それが熱心な後輩を掴まえて沈、そこを脱らないでちゃんと上がる。実は後輩は数カ月ぶりのブランクがあるのだけど、身についたものは裏切らない。
稲村ヶ崎からは大崎、真名瀬とつなぐ。真名瀬の水路ではカヤック2艇とすれ違った。どちらも5分割艇で、自然と「あー、5分割だー」と声が漏れて少し言葉を交わした。そうして遊びながら長者の砂州に上がる。
もう後10キロちょい。長者の浜はいつも風が抜けて強く感じるけど、みんなまだまだ元気、大丈夫でしょう。でも風に吹かれて体が冷えたので、みんな一枚上に着て、甘いもの二回りほど食べて見知った方向に漕ぎ出す。江の島はもう後ろにだいぶ霞んだ。
佐島のキラキラと荒崎で二度ほど手を止め小休止。海は凪いだ。ゴリラの二人は力任せなところも少しあるけど、それでもまだまだ漕いでいけそうなのが恐ろしい。疲労困憊と叫んでいるけれど、なかなかどうして。ブランクのある後輩はケロリとしていて、ゴールしても「えー、今日もう終わり?」と大先輩に聞くのだろう。
荒崎から真っ直ぐ網代崎を目指し、黒崎を過ぎたあたりでお日様にどんどん色がついてくる。あぁ、久しぶりに江の島行けたなあとつぶやきつつ堤防をまわると、湾内はもう水を撫でるだけで進む。そうしてだいぶ明るいうちにゴールできた。
疲れてはいるけど、今回はだいぶ余裕を持って皆漕げたなあと思いながら、揚々船を片付けているととっても寒い。風もないのに、日が落ちるだけでまだまだ気温が下がるのかなと思っていたら、みんな寒い寒い言っている。あと10キロ漕げるなんて言ってたけど、体は熱を作れないくらい結構へこたれてるのかもしれない。蓄熱体質の大先輩でさえ寒くて乾いた服にちゃんと着替えてた。
そうしてみな着替えて打ち上げる。残念ながら手広くやってる後輩は地元民なので、着替えが家だからと帰ってしまったけど、残りの4人で一息ついた。
熱心な後輩は久しぶりのカヤックで距離漕ぎ、沈脱、サーフ沈でロールと全部やった。今日の殊勲賞だと思う。これでホタルが飛んでまた夏が来る。水の上下自由自在のカヤックを楽しもう。