今まではしまなみ海道を縦に、あとは周防灘をくるりと回ったことがあるけど、どちらも二、三泊ほど。今回は長くて八泊することになる。初めての経験。漕げない日もあるかもしれない。補給もできない場合を考えないといけない。大先輩の挑戦を受け止めましょう。
どんな食事にしようかなと色々考えながら家の自炊で試してみる。すると家事も趣味になって、次の食事の準備が待ち遠しい。出るものが毎日しっかりと出る食事にしようと目標を立てる。あとはできれば水の補給も無しを目指す。
そうして荷物をまとめていよいよ出発の日。金曜の夜に横浜駅で集合。とはいえ駅で待っていたのは僕だけ。他の人達は大先輩が小網代からの道中にピックアップしてきたのですでに車中の人。今回参加するのは大先輩、レジェンド先輩、その先輩の弟分のようなシリアル後輩、筋トレ後輩、僕、それにもう一人瀬戸駅で合流する危険センサーが壊れてる後輩の計6人。さあ行くぞ瀬戸内!
4/27 結局漕ぐ
夜通し走って神戸も過ぎた。もうこの先高速は混まないでしょうし、お腹も空いたのでサービスエリアに寄ってゆっくり朝食にする。大先輩は蕎麦二玉。レジェンド先輩はカツ丼。皆朝から健啖々々。まだ居ないアブナイ後輩はもっと食うと話しながら瀬戸駅でその後輩をピックアップしてメンツは揃った。さあ行くぞ買い出し!
買い出しって焦るのよね。慣れた人たちはすぐに買い物を済ませて車に戻っちゃうから、勝手の分からない地元スーパーであちこち欲しいものを探してウロウロ、そもそも何が欲しいか定まっていなくてウロウロ、そうしている間に気ばかり急く。
基本は朝飯に餅と卵を焼いてあと味噌汁、果物。昼はゼリー系の行動食、夜はパックご飯と野菜で炒め飯。そんな感じ。忘れちゃいけないお酒、ガスのボンベ缶。そう書くと簡単だけど、オツマミ欲しいなあとか、量足りるかなとか、自信がないからウロウロ。
一週間を超える分の買い物をイケアのバッグ一つに収めてようやっと車に戻ると、先輩達はすでに車中でのんびりしている。後輩が戻ってくる時には、僕もいっちょ前に先輩づらして椅子に寄りかかって置いた。
買い出しも終えて昼前。とりあえず出発予定の浜に車をつけて海を見ながら相談する。今はもう潮が逆潮になっている時間で、これから出るとしたら伸びない船足で15km ほど漕ぐ必要がある。夜通し走った体で今から出るか、ここでゆっくり一泊して明日に備えるか。
そうして皆で浜に立ったら出るに決まってる。いそいそと舟に荷物を積み込んで着替えを終え、大先輩が広げた海図の前に頭を寄せた。今日の行程を今一度確認してさっと船を浮かばせる。準備中の心配や車での疲れが泡になって頭から抜けていく。腹の下からフツフツと力が湧いてくる。良いよね、遠くにカヤック漕ぎに来るの。
小豆島、豊島を左に見ながら、本州を右に見ながら西へ西へと漕いで行く。波はない。油凪な海面をヌルヌルと漕ぐが、しばらくして景色が変わっていないのに気づく。下げ潮が一番強い時間のようだ。波はないけど水全体が後ろに下がっているのだろう。波も風もない中パドルだけ回しているのは皆堪えたようだ。
それでもあの目印まで、次の目印まで、と休まず漕ぎ続けて4時間半、目当ての浜に舟を上げた。西の方なのでまだまだ明るいうちに着けたけど、逆潮(ぎゃくちょう)の中漕ぐ疲労感を思う様味わった。この経験がこれから先のペースを決めることになった。
荷物を出してテントや食事の支度をし終えた人から浜に腰を据え、海を見つめる。いつも大先輩が一番乗り。テントを立てないからだ。一人一人と増えて横に並ぶ。海はずっと静かで波が一切ない。だから時折入る引き波が綺麗に皺を作って浜に寄せる。波の音がしない、静かな海というイメージが一層強くなる。
暗くなるまでゆっくり食事やらお酒やらをしながら、旅の始まった興奮にまかせてざわざわ喋る。今日の経験で、皆の意見が「逆潮には逆らわず、順潮の時間に稼げるだけ漕いで、あとは浜でゆっくりして次の日に備える」と纏まる。これから小潮になる中で、全体を通して午前中に漕いで正午過ぎたら浜に上がるという方針で毎日25kmを目安に漕ぐ感じだ。
大先輩が、「今日の15kmは絶対最後に効いてきますよ」としきりに言っていた。15kmなんて小網代からちょいと安房崎行ってくるくらい。それでもそれの積み重ねで僕らは進んでいく。
明日は順潮に合わせて七時には舟を出すと決めて、皆テントに潜り込んで寝た。
4/28 瀬戸大橋
レジェンド先輩とシリアル後輩はシリアル兄弟。去年の福江島でも、朝早く起きてテントの中でフルーツグラノーラの食事を済ませ、日の出る頃には漕ぎ出す準備が二人とも済んでいる。
これはあくまでせっかちなのではない。歳を取ると色々な事が素早く出来なくなるから、それで他の人に迷惑をかけないようにと、早め早めに動く癖がついてしまうのだ。だから、PFDをつけてカヤックの横に立ってこちらを見ていても、「まだぁ~?」と言うような心持ちは一切なく、ゆっくりとテントを畳んでくれて良いのですとの二人の言。
それはわかるけど、見られると気は焦るのでこちらもつられて早めの行動になる。そうして予定の時間より早く浮かんだ。
直島の北側から開けた海域を見晴らすと、南西に大槌島がうっすら見える。その周りにはあまり島がない。本当にちょうどいい目印だ。どこにいても富士山を間違えないように、ここいらを漕いでいてこの島は間違えないだろう。順潮に乗ってうわ~っと漕いで行ったら、島の近くで割れた流れが北に北に舟を寄せて危うく島を外すとこだった。その流れが島の北側に作る潮波に乗ろうと大先輩がわざとそちらに船を振るけど僕は騙されないぞ。潮波の上流に舳先を向けて浜にグライド気味にまっすぐ入っていった。他の人は大先輩について行って、潮波を被りながらザブリザブリと流れを漕ぎ上がって来て浜に上がった。
大槌島は北半分岡山県、南半分香川県。多分岡山側にしか居なかったと思う。小休止ですぐにまた浮かんで北側の波に乗って先に進む。
次の目印は瀬戸大橋か。靄がかっていて湿気があるのだろう。うぅ~っすらと見えるか見えないかの柱を心の目で見つけたような気がするけど、右にも左にもみえるような気がしてその真ん中を進む。そのうちに目印の柱がはっきりしてきて、グングン流れに乗って進んでいく。
柱のそばは流れが巻いてざわつく区間だったけど、つるりと抜けてその先の瀞場の海域で落ち着く。大橋には電車が通り、その音を真下で聞く。スピードを出してそうなバイクの音があっという間に左から右に過ぎていくかと思えば、救急車のサイレンも動いていく。人がいると色んな音がするなあと思いながら大橋を離れてまた静かな島に寄っていく。
近くの浜に舟を上げて一休み。今日の予定は消化済みで、ここからボーナス区間になるけれど、この先どうするか軽食を摂りながら相談しましょうということで軽く荷解き。島に寄って行く間少しペースが落ちた事もあり、昨日の漕ぎが思い起こされて皆逡巡しているようだ。夜露で濡れたテント道具等もあり、陽の当たるこの浜で乾かしたい気持ちもある。そうして三十分程ブラブラしたらここに決定。正午にはビールを開けて後戻りはできないようにして腰を落ち着けた。
そのうち焼酎お湯割りに移って自由に過ごす。大先輩は海図と沿岸潮汐表と思しき冊子を睨みながら気づくと寝落ちしている。筋トレ後輩は寝転がって昼寝、アブナイ後輩は太極拳の型をやって心身を整えている。そうして日が落ちるまでのんびり過ごした。明日の午後からは天気が崩れる模様。しばらくは雨にうたれて過ごすことになりそうだ。今のうちのお陽さまをたっぷり味わって充電して寝た。
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